イスタンブールでツアコンの真似事をする(1)

<4日目続き>
何度も何度もトルコを訪れるうちに、単純な移動くらいならばガイドブックや地図がいらないくらいには詳しくなっていた。

仕事で時々顔を合わせ、仲よくさせていただいている方たちのなかに、トルコに興味はあるが個人で自由旅行をするのは敷居が高いと感じている方がいて、「よかったら案内しますよ」と声をかけていた。

それで、2013年春、イスタンブールで2人の知人を案内することになった。

1人はN氏。世界の歴史に詳しく、個人でヨーロッパを旅行することはある。もう一人はC氏。彼も歴史に詳しく海外旅行も好き。海外旅行は限られた日程で効率的に回るということを重視されているようで、現地ではガイドを雇い車をチャーターする旅を基本としている。

案内するからには、公共の交通機関を利用しつつも、できる限り効率的に、メジャーな場所はもちろん、ありきたりのツアーではあまり行かない(時間をかけない)所にも行くということを基本方針として、この旅に臨むことにした。

僕がアタチュルク空港で到着を待っていたのはN氏の方で、C氏はこの日まで日本からのグループツアーに参加して、翌朝、ツアーを離脱して我々と合流する予定。

3人のホテルは僕が手配し、N氏の到着に合わせて空港出迎えの車もお願いしておいた。

アンタルヤからの便が遅延したり欠航したりするとまずいので、空港で待ち合わせるという選択肢は当初から除外しており、N氏には送迎車でホテルへ行ってもらうことにしていたのである。

ただ、自分の乗った便が定刻通りイスタンブールに到着したので、国際線の到着ロビーでN氏の到着を待つことにした。

成田からのトルコ航空便の到着は19時くらいだったと思うが、まだ、かなり時間があるので夕食をとったり、N氏の夜食用のスィミット(わっか型のゴマパン)を買ったりした。日本からヨーロッパ方面に同日着の便で行くと、到着後、夕食をとることが多いと思うが、食事の回数が増えすぎ胃が疲れてしまうという経験があるので、軽く食べて早目の就寝がよいと考えたのだ。ツアコンとしてのお客様への配慮である(笑)。

19時40分ころ、N氏が到着ロビーに出て来た。

出迎えの車のドライバーと落ち合い、20時半ころ、スルタンアフメット地区にあるホテルに到着。

ドライバーにチップを渡し、N氏のスーツケースを部屋まで運んでくれたベルにもチップを渡した(自分は25リットルのリュック一つなので世話にはならず)。ツアコンっぽい行動ができたか?(笑)



<5日目>
朝食後、ブルーモスク前でC氏と合流。(C氏の荷物をホテルに置いた後観光へ)

9時、ほぼ開場と同時にアヤソフィアへ(ここからはツアコンにある程度専念していたのか?、写真をあまり撮らなかったので、ところどころにC氏からいただいた写真を掲載します)。



アヤソフィアでいつも撮る写真。キリスト教とイスラム教が併存する空間。2020年、アヤソフィア博物館はモスクに戻された。礼拝時にはキリスト教関係の絵などが見えないようカーテンで覆うとのことだが、礼拝時以外にどのように見えるのか興味があるところではある。なお、礼拝時には見学できなくなったが、博物館ではなくなったので入場料は不要になったらしい。




何度見たかわからないくらい見ている壁画。近くで撮らず、少し引いて撮ってみた。




天使セラフィム。残念ながらぶれてしまった。




出口付近で振り返って1枚。




上の写真の説明で、2020年アヤソフィアがモスクに戻されたことを書いた(この旅行記を書いているのは2021年4月)。キリスト教とイスラム教という異なる宗教の要素が共存する象徴的な遺産をイスラム教寺院に戻したトルコの現政権に対する批判があるようだが、イスラム世界の諸情勢やイスラム世界とヨーロッパとの関係などに詳しい同志社大学の内藤正典教授がtwitterでこの問題の経緯について書いていて、それは次のような感じ。

アヤソフィアは、オスマン帝国によるビザンツ征服の象徴としてモスクに転用され、アタチュルクがトルコを西洋化して国民国家とすべくイスラム国家としてのオスマン帝国との決別を示して博物館に転用した。しかし、その博物館転用の手続きが違法だった。

アヤソフィアの利用権をもつワクフ(財団)が、アヤソフィア本堂での礼拝を閣議決定で禁じられたのは違法として行政訴訟を起こし、最高裁が違憲判決を出した。

トルコで行政訴訟を扱う最高裁の判決では、そもそもアヤソフィアはファーティヒ・スルタン・メフメット・ハン・ワクフ(財団)に帰属しており、同ワクフの用益権を侵害する形で用途を変更する決定は違法であり、この決定をした1934年11月24日の閣議決定は無効とされた。(→これをうけてエルドアン政権がアヤソフィアのモスク化を決定した)


アヤソフィアの後は地下宮殿(4~6世紀に造られた貯水池)へ行った。



かなり久しぶりで地下宮殿に入った。



宮殿の一番奥の方にあるメドゥーサの顔。




地下宮殿のすぐ近くにあるミリオンと呼ばれるモニュメント(C氏撮影)。4世紀初頭に建設されたものの残骸で、各地方に伸びる道においてコンスタンティノープルからの距離を測る基準となった。自分はこのあたりを相当回数歩いているがまったく気が付かなかった。しかし、さすが歴史好きのおふたり。こんな目立たないモニュメントもしっかりと確認していた。



普通のツアーだと、この流れてブルーモスク(スルタン・アフメット・ジャミイ)の見学ということになるのだろうが(トプカプ宮殿は大物すぎて時間がかかるので後でしっかり時間を確保する予定)、歴史愛好家のお客さんを案内するツアコンとしては、オスマン・トルコ帝国の最盛期を現出させたスレイマン大帝が建造させたスレイマニエ・モスクへ行くことを提案(ここにはスレイマン大帝とその妻の廟もあるし)。また、このモスクは高台にあって目立つのだが、下から徐々に登っていくと意外とわかりにくいので、行きやすいブルーモスクは後で行っていただくのがよいのではとも考えた。

スレイマニエ・モスクに着いた時は、あいにくの礼拝時。ツアコンとしては初歩的なミスである(礼拝時間くらい把握しておけよ、自分)。ということで、スレイマニエ・モスクの見学は翌日に回すことにして、ちょうど昼食の時間帯にもなったことだし、イスタンブール大学から少しマルマラ海の方へ下ったところにある地元の人たちで賑わうレストランへ行った(自分は以前のイスタンブール訪問で利用したことがある)。



イスタンブール大学(C氏撮影)。この右側の道を道なりに進んでいくとスレイマニエ・モスクへ行ける。ちなみに自分がグランド・バザールを抜けて、登り坂になっているところを何となく進んでいるうちにスレイマニエ・モスクに到着というのが好きだが、ちょっと迷う可能性もあるので、この日は単純なルートを選択。




昼食をとったセルフ・サービス方式のレストラン(C氏撮影)。セルフとはいっても、自分で取り分けるのではなく、並んでいる料理を指さして店の人に皿に盛りつけてもらう。



昼食後、いったんホテルに戻って休憩。専用車を利用して見どころから見どころへ移動するという旅ではないので、適度な休憩が必要と考えた、というか自分の旅がそんな感じなので。

14時半、午後の観光スタート。

おふたりが希望するカーリエ博物館へ向かうことに。

ベヤズィットのバス乗り場までいったが、カーリエ博物館最寄りのエディルネ・カプへ行くバスがなく(発車時刻の近いものがなかったのか、そもそもそういう路線がなかったのかのメモはない)、急きょ予定を変更し、まず、トラムでアクサライに移動してヴァレンス水道橋を見物することにした(なかなか臨機応変の対応ができるツアコンだ-笑)。



コンスタンティヌス帝の時代に建設が始まりヴァレンス帝の時代の378年に完成した、その名もヴァレンス水道橋。午前中に見物した地下宮殿へは、この水道橋を利用して水が引かれていた。水道橋の上でポーズをとっている一団がいるが、橋のうえに登るのは禁止されているはずなので、何かの取材で特別な許可を得て撮影していたのだろうか?



アクサライからエディルネ・カプ方面へ行くバスに乗車して、カーリエ博物館へ向かった。



カーリエ博物館(C氏撮影)。5世紀の初めに修道院として建設され、オスマン朝にイスラム寺院として使用された(ということでミナレットがある)。13~14世紀に描かれたモザイク画やフレスコ画は漆喰で塗りつぶされていたが、20世紀中ごろの調査で発見・修復された。




下は聖母マリアとキリスト。




一つ上のものとは違うキリスト像。拡大してみたがモザイクの質感がわかるだろうか。なお、モザイクには凹凸があり、その表面の向きが微妙に異なるため、見る角度によって微妙に色が異なるらしい。







聖母マリアの死。キリストが抱いている子は聖母マリアの霊魂。




聖母子像。




「アナスタシス」 キリストがアダムとイブの手をとり地獄から引き上げるさまを描いたもの。




聖母子像。




テオドシウスの城壁(カーリエ博物館の近く)。イスタンブールの西側をがっちり防御する城壁で、メフメット2世がコンスタンティノープルを攻撃した際、ここの防御を崩し切ることはできなかった。




ハムスィ(かたくちイワシ)。イスタンブールに行くと必ず食べる。同行のおふたりにも勧めたが好評だった(と思う)。




一つ上の写真にあるハムスィを食べたレストラン(C氏撮影)。カラキョイのフェリー乗り場の前に並ぶレストランの一つ。ハムスィは庶民的な魚で、多くのフィッシュ・レストランが並ぶクムカプにはこの魚を提供するところは少ないような感じ(店の前に出しているメニューを見ただけだが)。




ツアコンの真似事の1日目が終了。写真はブルーモスクとその前にある噴水(C氏撮影)。